スメタナの不幸を奏でるヴァイオリン

2016/12/17
スメタナの不幸を奏でるヴァイオリン
雑学 人物

わが生涯より



チェコの民族的主義的な作品を多く残し、チェコ音楽の祖として知られるベドルジハ・スメタナ
音楽好きだった父の影響で幼くしてヴァイオリンとピアノに親しんだスメタナは、すぐに音楽的素養の片鱗を見せ付け、6歳にしてピアノのコンサートを開くほどでした。

音楽教育を受けながら順調にその芽を伸ばしたスメタナは父の許可を得て、プラハに進学することとなります。
学校には馴染めずすぐに足が遠のくようになりますが、プラハで多くのコンサートを鑑賞したスメタナは音楽の道こそが自身の進むべき道だと確信します。

学校に通っていないことが父にばれるとプラハから連れ戻されてしまいますが、音楽はあくまで趣味に留めるべきだと主張する父を説得し本格的に音楽家への道を歩き始めるべくプラハへと舞い戻ります。
プラハではピアノ教師をしながら音楽理論を学ぶ日々でしたが、そんなプラハに革命の足音が響き始めるようになります。

君主国であるハプスブルク打倒を掲げた民主化運動が各地で巻き起こると、スメタナは革命の市民兵に加担し多くの愛国的作品を作曲するようになります。
革命運動と共に各地で演奏活動を行うスメタナですが、なかなかプラハで名を上げることが出来ず、音楽的には後進国であったスウェーデンのヨーテボリへと旅立ちます。

スウェーデンでの作曲活動、さらには諸外国にまで触手を伸ばした演奏活動を続けるスメタナですが、まだ絶大な名声を手に入れるまでには至りませんでした。
しかし確実に時間は流れ、プラハではハプスブルク君主国が弱体化し、民主化の風が吹くようになりました。
この時流に乗って三度プラハに舞い戻ったスメタナは、どんな困難に直面しようとも今後は祖国にて音楽の道を究めると心に決めます。

そんなスメタナに転機が訪れます。
まだチェコ独自のオペラというのは皆無だった時代に、オペラの為の劇場が建設されることとなります。
スメタナはチェコの文化を汲んだオペラを作曲しようとチェコ語を学びます。
なぜスメタナが祖国であるはずのチェコの言葉が流暢でなかったかというと、ハプスブルク君主国の制度により公用語がドイツ語と定められていたからです。

このチェコオペラで一気に名声を獲得すると、劇場の指揮者の地位を射止めますが徐々にスメタナに対立するものが現れ始めます。
スメタナが芸術監督にまで登り詰めるといよいよその攻撃は表立ったものとなり、大喝采を浴びたはずの上演が翌日の紙面では酷評されるといった具合でした。

この状況に深く傷ついたスメタナは徐々に体調を崩すようになり、ついには右耳の失聴、翌月には左耳まで失聴し完全に音を失います。
やむなく劇場の職を辞したスメタナは作曲活動に専念するようになります。
対立因子との軋轢から解放されたスメタナはここから歴史的に重要な作品を多く作曲するようになり、その名声を絶対的なものとし、チェコ国民楽派を代表する音楽家であると認知されるようになりました。

しかしスメタナには少しずつ病の魔の手が忍び寄っていました。
まず訪れたのが記憶生涯。
そしてイ長調の主和音の幻聴が聞こえ、不眠から鬱症状を引き起こすまでに悪化します。
友人に宛てた手紙で、自身が発狂してしまうのではないかという不安な心情を吐露していますが、この予感は不幸なことに現実のものとなってしまいます。

病の魔の手が脳にまで達するとスメタナはいよいよ発狂し、精神病院に入院されられるも正気に戻ることのないままその生涯を終えます。
スメタナ60歳のことでした。

そんなスメタナに聞こえていた幻聴を表した作品があります。
弦楽四重奏曲第1番『わが生涯より』の終楽章でヴァイオリンが甲高いハーモニクスの持続音を奏でます。
これはホ音になるのでスメタナに聞こえていた音とは違いますが、幻聴とそれに伴う発狂への不安を表していると言われています。

このスメタナの不安な心情に思いを馳せてこの作品を聴いてみると、また違った聴こえ方がしないでしょうか。

関連記事

2016/12/30
カウントダウン
雑学
公演

2016/05/11
ベートーヴェンは1日に3リットルのワインを飲んでいた?
雑学

2016/11/13
パガニーニとベルリオーズ
雑学
楽曲

2016/09/25
60歳で花開いた作曲家
人物

人気の記事
1位. 平均律と純正律の響きの違い

2位. 木管楽器と金管楽器の違いとは?

3位. 不協和音の定義とは?

4位. ブラームス派 VS ワーグナー派

5位. 魔王の作曲者はシューベルトではない?

6位. ベートーヴェンの難聴の原因

7位. バラードとは?

8位. モーツァルトは下品なのか?

9位. ワーグナーの婚礼の合唱は縁起が悪い?

10位. エリーゼのためにのエリーゼって誰?

11位. エリック・サティという突然変異

12位. 非業の死を遂げた作曲家

13位. ハレルヤコーラスでは起立するべき?

14位. モーツァルトのレクイエムに眠る逸話

15位. メンデルスゾーンの功績

16位. チャイコフスキーの突然死の謎

17位. 交響詩とは?

18位. ソナタ形式とは?

19位. クラシック音楽に目覚めたきっかけ

20位. 印象主義音楽に影響を与えたグリーグ