狂ったメトロノーム

2016/12/08
狂ったメトロノーム
雑学 知識

テンポの重要性



メトロノームは1816年にヨハン・ネポムク・メルツェルが発明し商標登録した、テンポを視覚でも聴覚でも把握できるようにした画期的な商品です。
振り子が振れる速度でテンポを表す仕組みで、重りの位置を変えることで自在にテンポを変えることが出来ました。

音楽はその特性上、テンポによってその表情をガラリと変えてしまうものですので、作曲家はこのテンポにも非常に心を砕いてきました。
重要な指針であるテンポは、メトロノームの出現によって初めて楽譜に数値として書けるようになります。
これは近代音楽への発展にとって、とても重要な意味を持つことでした。

このメトロノームに飛びついたのが楽聖ベートーヴェンです。
自身のこれまで発表してきた交響曲に対して、メトロノームによるテンポを書き足していきました。
またベートーヴェンにとってはテンポを数値化するという意味合いだけでなく、年々悪化する難聴を補うものとしても活躍しました。
耳が聞こえなくても振り子運動で視覚的にテンポを把握できるメトロノームは非常に都合がよかったのです。

しかし現在ベートーヴェンの作品を演奏する際にベートヴェンの記したメトロノームによるテンポ表記は半分近く無視されています。
それは一体何故でしょうか。

メトロノーム登場以前の音楽界ではテンポの設定をアレグロやアダージョなど気分的な言葉で表現しており、明確に指定されてはいませんでした。
そこは指揮者の裁量に任されていたということです。

ベートーヴェンは古いテンポ表記もメトロノームの新しい表記も記したハイブリッドな作曲家であった為、しばしばどちらを採用するべきか議論が交わされてきました。
例えば同じアレグロでありながら作品によってメトロノーム表記のテンポが倍近く違うことがあったのです。

時代はこれに対して、ベートーヴェンのミスまたはメトロノームの不具合という回答を出しました。
ベートーヴェンが目盛りを見間違えたという説、メトロノームが湿気や使っている部品によって狂ってしまうという説、そもそもメトロノームが壊れていたという説、ベートーヴェンが仕組みの違う2つのメトロノームを使っていたという説など多種多様の説があります。

中にはあれだけ仔細にこだわったベートーヴェンがこのようなミスを見逃すはずがないので、表記通りの演奏をすることが正しいという説もありますし、実際にメトロノームのテンポ表記に沿って演奏されることもあります。
このまま研究が続いていき、まだ発見されていないような重要な資料が発見されればこのベートヴェンのテンポ問題に終止符が打たれる日が遠からずあるかもしれません。

天国のベートヴェンの顔は怒りで紅潮しているのでしょうか、それとも青ざめているのでしょうか。
答えが出るまでのしばしのお楽しみですね。

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