英雄の生涯

2016/10/26
英雄の生涯
雑学 楽曲

英雄とは誰のこと?



クラシック音楽で『英雄』を題材にした作品といえば、ベートーヴェンの交響曲第3番を頭に思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
『エロイカ』という名前でも知られていますね。
共和主義というトップを設けない政治思想を謳っていたナポレオンに共感したベートーヴェンが、ナポレオンのために作曲した作品ですが、ナポレオンが皇帝に即位するや「奴も俗物に過ぎなかったか」と作品の表紙を破り捨てたというのは有名な話です。

今回紹介するのはそのベートーヴェンではなく、リヒャルト・シュトラウスの『英雄の生涯』という作品です。
『英雄』という言葉を使う以上、シュトラウスベートーヴェンの『英雄』を当然意識していたようで、基本となる調はベートーヴェンの『英雄』と同じ変ホ長調、そしてこの作品を『エロイカ』と呼んでいたようです。
さらにはベートーヴェンの『英雄』のフレーズを断片的に引用もしています。

突然ですが、ここでひとつの疑問が生じます。
ベートーヴェンの『英雄』は前述の通りナポレオンのことですが、シュトラウスの『英雄の生涯』は一体誰のことを言っているのでしょうか。

この問いにシュトラウスはこう答えています。
「それを知る必要はない。」
と。

まったく的を射ませんので謎解きのために作品の詳細を見ていきましょう。
この作品は6部から成る交響詩で、それぞれ"英雄"、"英雄の敵"、"英雄の伴侶"、"英雄の戦場"、"英雄の業績"、"英雄の隠遁と完成"という標題が付いていることが知られています。
しかしこの標題や分け方についてはシュトラウスが楽譜で指定したものではなく、シュトラウスが作品について語った内容から徐々に広がっていったようです。

それぞれの標題の内容ですが、まず初めの"英雄"で低弦とホルンの強奏により英雄のテーマが提示されます。

次に"英雄の敵"で木管により英雄を嘲笑するようなモチーフが提示されます。

"英雄の伴侶"ではヴァイオリンにより伴侶のテーマが提示され、英雄のテーマと出会い、駆け引きの後にひとつになります。

"英雄の戦場"では金管や木管による敵のモチーフが英雄を非難し続けますが、ヴァイオリンの伴侶を得た低弦とホルンの英雄は、伴侶と力を合わせて敵に打ち勝ちます。

"英雄の業績"ではシュトラウスのこれまでの作品のテーマが次々と提示され、回想シーンとなります。

最後に"英雄の隠遁と完成"で年老いた英雄は田舎に隠遁し、伴侶に看取られながら静かにこの世を去ります。

さあいかがでしょうか。
ポイントは英雄の業績で、作曲者であるシュトラウスの作品のテーマが次々と提示される点でしょう。
つまり英雄と言うのはリヒャルト・シュトラウス本人のことだったのではないかと推測できます。

さらにリヒャルト・シュトラウスは晩年こそ古典的な手法へと回帰しましたが、当初は不協和音を多用するなど前衛的な作曲家であり、多くの人々の批判にさらされていました。
つまり『英雄の生涯』における敵というのはシュトラウスを批判し続けた人と言えます。

また悪妻として有名なパウリーネと結婚したシュトラウスは、この妻にかなり手を焼いていたようですが、尻を叩かれ続けて多くの作品が生まれたという意味では、ある意味力を合わせて批判する人々と戦ったと言えるでしょう。

これだけの証拠が揃えば英雄=リヒャルト・シュトラウス本人説はかなり信憑性の高い説と言えるでしょう。
当時の人も当然のようにそう考え、シュトラウスに英雄というのはあなたのことですかと尋ねます。

この問いにシュトラウスはこう答えています。
「当たっている部分もあるが、私は英雄ではない。」
と。

結局本人からは的を射た回答は得られませんでしたが、この作品はパロディ要素のある作品ですので、一種のユーモアという面もあるでしょう。
ちなみに異説としては、ビスマルクやヴィルヘルム2世という説もあるようです。

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