収容所を照らした光

2016/10/18
収容所を照らした光
雑学 楽曲

世の終わりの為の四重奏曲



移調の限られた旋法とは?』で紹介した新しい旋法を、『わが音楽語法』という自著にて体系立てた作曲家メシアン
11歳で音楽院に入学すると、和声科2位、フーガおよび対位法科1位、伴走科1位、音楽史科1位、オルガン科およびオルガン即興科1位、作曲科1位というとんでもない成績を残し21歳で卒業します。
また教育者としても優れた音楽家を多く輩出しており、ブーレーズ、シュットックハウゼンはメシアンの教え子になります。

そんなメシアンですが、活躍した時代は第二次世界大戦の真っ只中。
戦時中を生きた多くの若者と同様にフランス陸軍に従軍していたメシアンは、ドイツ軍の侵攻を受けて捕虜となりゲルリッツにある収容所『Stalag VIII-A』に収容されます。
すでにドイツでも高い評価を得ていたおかげで他の囚人よりは優遇されていましたが、それでも零下20度を下回る寒さ、飢餓から来る栄養失調と極限状態に身を置くことになります。

そんな極限状態で目にしたのは新約聖書『ヨハネの黙示録』。
終末思想的な内容に着想を得たメシアンは『世の終わりの為の四重奏曲』を作曲します。
同じ収容所にヴァイオリンのブーレール、クラリネットのアコカ、チェロのパスキエが収容されていた為、ピアノのメシアンを加えた一風変わったカルテットとなりました。

作品の完成と共に初演を迎えるわけですが、囚人である以上、当然劇場に行って演奏することはできません。
演奏するのも収容所の中です。
そこにあった楽器はとてもまともなものではなかったとメシアン自身が語っています。
ピアノは打鍵すると鍵盤が戻ってこず、チェロは1本弦が失われており、クラリネットはキーのひとつがストーブの熱で溶けてしまっているという状況。

それでも千人規模の囚人の前で演奏が始まると、張り詰めた静寂が支配する収容所を音が埋め尽くしていきます。
メシアンはこう振り返ります。
「決して恵まれた環境ではなかったが、私の作品がこれほどの集中と理解をもって聴かれたことはなかった。」

実際には楽器の程度や聴衆である囚人の規模など、メシアンの証言とチェロのパスキエの証言が異なっている点があったりするのですが、この日の演奏が多くの囚人に深い感動を与えたことは事実です。
極限状態の日々に絶望している人間からすれば、降り注ぐ音の数々がそれこそ天からの啓示のように聴こえたかもしれません。
それが終わりを示唆するものか始まりを示唆するものかは分かりませんが。

余談ですがメシアンはある感覚が生じた際に、普通であれば感じない別の感覚を生じさせる『共感覚』を持っており、音を聴くとそれに対応した色を想起していたようです。
しかも1音1音に別の色があてがわれており、音が複雑に組み合わさった時に、ステンドグラスの様な色の感覚を得ていました。

世の終わりの為の四重奏曲が収容所で初演された1941年1月15日。
いったいメシアンはどのような色を見ていたのでしょうね。

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