音の鳴らない音楽

2016/10/05
音の鳴らない音楽
雑学 楽曲

4分33秒



古今東西、これまで色々なジャンルの音楽が生まれてきました。
形は違えど、多くの人の心を魅了してきた歴史があります。

ところで一体、音楽の定義って何でしょうか。
旋律があること?
しかし打楽器だけで構成される音楽もあります。
最低限、何かしらの音が鳴っていることが条件とは言えそうです。

しかしそんな最低限の条件ですら、覆してしまう"音楽"が存在します。
演奏に639年かかる曲』で紹介した作品と同じ作曲家、ジョン・ケージの作品です。

3楽章に分かれている作品ですが、譜面上は楽章ごとに「休み」と書いてあるだけです。
開幕すると演奏者?たちが現れて、何もすることなく一定時間後に帰っていきます。
指揮者も楽章の区切りを示すのみ。
ちなみに楽器の構成や人数は自由であるそうです。

この作品の真意はどこにあるのでしょうか。
そこに哲学がなければこれは手抜きにもなりません。

この作品は偶然性の音楽の究極形であり、禅の「結果をあるがままに受け入れる」という思想と繋がりがあります。
この思想はケージのある体験から来ています。

ケージは無音というものを体験しようとハーバード大学にある無響室を訪れます。
しかし音がないはずの世界でも自身の血流が流れる音、神経系の働く音が聞こえてきた時にケージは気付きます。
"この世界に音のない世界はないんだ"ということに。

この思想を得て以降ケージは、例えばキノコの胞子が飛び散る瞬間にも人間には聞こえていない音楽があるはずだと考えるようになります。
人の耳には聞こえない音楽。
段々と核心に近づいてきましたね。

この作品の初演はピアノによって行われたのですが、ピアニストのチューダーはピアノの前に4分33秒座っただけで何もせずに舞台から去っていきました。
静まり返った劇場がざわつきはじめ、最後は怒号に変わります。
この聴衆たちの発する声、演奏者の靴音、照明の熱する音、空気が通り抜ける音。
作品に"音"がなくても確かに劇場には"音"が溢れています。

これがこの作品の音楽なのです。
哲学には崇高さというx軸の他に幅というy軸があり、自身の哲学をどの幅まで体現するかでその持つ意味合いは変わってきます。

ここまで体現することはある意味すごいことだと思います。

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