最高規模のオーケストラ

2016/08/22
最高規模のオーケストラ
雑学 人物

ボストン世界平和記念祭



ワルツ王の誕生』にてヨハン・シュトラウス2世の父は愛人と家をでてしまったというエピソードを紹介しました。
しかしこの不倫の結末は悲惨なもので、愛人の子供がかかっていた病気にヨハン・シュトラウス1世が感染すると、あっけなく息を引き取ってしまいます。
さらにこの愛人はヨハン・シュトラウス1世の遺体を放置して、荷物をまとめて家を出てしまいました。

当然残された家族である、妻と息子が遺体の処理をしなくてはなりません。
父の放置された遺体に対面したヨハン・シュトラウス2世は強いショックを受け、以後"死"というものに病的なまでの恐怖心を抱くようになります。

それは概念としての"死"ではなく、まるで死期を宣告された病人であるかのように、自分の日常に潜む"死"に怯えました。
葬儀には家族のものであっても出席しない。
"死"という文字を見ただけで半狂乱に陥る。
大自然に"死"を想起し近付こうとしない。
速い乗物を怖がり、やむを得ず鉄道を利用する際はカーテンで窓をふさぎ床にしゃがみこんでアルコールを飲み続ける。
などなどなど。
そして1870年に母、弟、叔母と身内が次々亡くなると、いよいよ作曲すら手につかなくなります。

そんな"死"に魅入られてしまっているヨハン・シュトラウス2世にアメリカ独立100周年の祝典をかねた世界平和記念祭の指揮者としての招待が届きます。
当時、ウィーンからアメリカへ行くには、船で大西洋を横断するというとんでもない長旅です。
ただでさえ乗物嫌いで自然嫌いのヨハン・シュトラウス2世ですから、"死"に魅入られている状況ではとても承諾はできない内容です。
しかし世界平和記念祭の演奏会のとんでもない規模と報酬、また妻の必死の説得もあり、ようやく首を縦に振ります。
その決断はある意味で"死"を受け入れるということと同義であったようで、ヨハン・シュトラウス2世は遺言書をしたためています。

アメリカに渡ったヨハン・シュトラウス2世は演奏会で『美しく青きドナウ』を演奏します。
その規模はとてつもないものでした。
10万人の聴衆、1000人規模のオーケストラ、2万人の合唱団、100人の副指揮者、そしてその頂点で指揮棒を振るうのがヨハン・シュトラウス2世です。

大砲を合図にして演奏がスタート。
ヨハン・シュトラウス2世のタクトに合わせて副指揮者が指揮棒を振り、それに合わせてオーケストラが音を奏でると2万人が歌う。
10万人の聴衆の息遣いと最高規模の楽団が震わす空気が混然となり、訪れるフィナーレ。
想像しただけでもとてつもない空間ですよね。

アメリカでの人気も勝ち得てウィーンに帰郷したヨハン・シュトラウス2世はまさに絶頂期とも呼べるような時期を迎えます。
音楽家生活50周年記念の折にはウィーンの街の至る所で祝賀会が設けられ、彼の作品が場所を選ばず演奏されているような状況でした。
死後も特別墓地に埋葬され、第一次世界大戦が勃発しオーストリアが敗戦を迎えると、「ヨハン・シュトラウス2世の死と共に、ハプスブルク帝国も死んだ。」とまで言われるようになります。

時代に巻き込まれた国の運命の終端を一個人が彩る。
これだけでヨハン・シュトラウス2世という人物がいかなる名声を得ていた人物なのかが分かりますよね。

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