古典派時代の出世頭

2016/07/30
古典派時代の出世頭
人物 雑学

アントニオ・サリエリ



映画『アマデウス』にて一躍その名を世界に轟かせた古典派時代の音楽家アントニオ・サリエリ
しかし映画での扱いは天才モーツァルトに嫉妬しモーツァルトを死に追いやった、地位は高いが凡庸な作曲家として描かれていました。
では実際はどのような作曲家だったのでしょうか。

イタリア生まれのサリエリは幼少の頃から音楽の才を発揮しており、その天賦がイタリアを訪問していたウィーン宮廷楽長ガスマンの目に留まります。
幼くして両親を失ったサリエリはこのガスマンを師としてウィーンに移り住み、以後その生涯をウィーンで過ごすこととなります。

当時はイタリアオペラ旋風が吹き荒れている時代だったこともイタリア出身のサリエリに追い風となりました。
皇帝ヨーゼフ2世によって宮廷作曲家に取り立てられると、イタリアオペラや宗教音楽に手腕を見せ、宮廷楽長、つまりウィーン音楽家としての最高位にまで上り詰めます。

映画『アマデウス』をご存知の方は、この宮廷楽長としてモーツァルトに嫌がらせをするサリエリを連想するかもしれません。
実際にモーツァルトから父レオポルトへの手紙にも「サリエリの妨害を受けているせいで宮廷音楽家に取り立ててもらえない。」と綴っています。
ただモーツァルトは手紙の中で悪口を書くことは日常茶飯事であったため、どこまで本気で書いているのかは分かりませんが。。

しかし近年の研究の結果、サリエリモーツァルトを妨害するどころか高く評価していたことが分かってきました。
もちろんモーツァルトを毒殺したなんてのはゴシップもゴシップです。
ただこのゴシップはサリエリの生前から言われていた話で、『セビリアの理髪師』でお馴染みのロッシーニサリエリに直接ことの真偽を問うていますし(もちろんサリエリは否定しました)、ベートーヴェンの筆談帳にも甥のカールがこのゴシップを話していたことが書かれています。
またサリエリが弟子であるモシェレスに涙ながらに自分の無実を訴えたことが逆にモシュレスの猜疑心を煽り、自分の師がモーツァルトを毒殺したに違いないと余計な疑いを抱かせるに至りました。
行く末はロシアの詩人、アレクサンドル・プーシキンがこのゴシップを『モーツァルトとサリエリ』というタイトルで劇詩にし、この劇詩をもとにリムスキー=コルサコフがオペラ『モーツァルトとサリエリ』を作曲するに至り、この噂話はいっそうの真実味を持って語られるようになりました。
映画『アマデウス』もこの劇詩をもとに製作されていますが、実際に何があったかについては『モーツァルトのレクイエムに眠る逸話』をご一読下さい。

余談ですが映画『アマデウス』の冒頭でモーツァルトを死に追い詰めたことを気に病んだサリエリが、精神錯乱を起こして病院に入れられるシーンがあります。
確かにサリエリは晩年、入院生活を送っていましたが、それは決して精神錯乱のせいではなく通風の治療のためでした。

指導者としてのサリエリ



さて、ではサリエリはいったいどのようにモーツァルトを評価していたのでしょうか。
モーツァルトの生前に『魔笛』を聴いたサリエリは「これぞオペラだ!」と絶賛したそうです。
自身もオペラの作曲を第一としていたサリエリですから、もしモーツァルトに対して嫉妬心や何か後ろ暗い思いがあるのであれば、このような最大限の賛辞には至らなかったでしょう。
またモーツァルトの死後も宮廷楽長としてモーツァルトの作品を多く取り上げていたことが記録に残っており、自身で指揮もとっていたようです。
さらにはモーツァルトの末子で、『もうひとりのモーツァルト』で取り上げたフランツ・クサーヴァー・モーツァルトの指導にもあたっていました。

指導の話が出た所で指導者としてのサリエリについても触れたいと思いますが、ここはまさにサリエリという音楽家の中で特筆すべき点で、前述のフランツ・クサーヴァー・モーツァルトに限らず、ベートーヴェンシューベルトリスト、ツェルニー、ジュスマイヤーなど数多くの著名な音楽家を育ててきました。
さらには自身が幼い頃に両親をなくし、ガスマンからほぼ無償でその指導を受けていたことに深い感銘を受けていたサリエリは、指導に当たって報酬を得ることはほとんどなかったそうです。
それだけに留まらず、生活に困窮した音楽家を救うために慈善演奏会を定期的に開催するなど、経済的に貧しい音楽家への支援を積極的に行っていました。

いかがでしょうか。
映画『アマデウス』をご覧になった方からするとサリエリの印象が180度変わるのではないでしょうか。
まだサリエリのオペラが上演されることはほとんどありませんが、近い将来汚名を晴らして大ブレイクする時がくるかもしれませんね。

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