もうひとりのハイドン

2016/07/29
もうひとりのハイドン
人物 雑学

ミヒャエル・ハイドン



ハイドンという名前を聞いたら多くの人が『交響曲の父』で紹介したフランツ・ヨーゼフ・ハイドンを思い浮かべるのではないでしょうか。
しかしフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの5歳下の弟であるミヒャエル・ハイドンも生前は大家と呼ぶべき作曲家でした。

この優れた作曲家であった弟が兄の影に隠れてしまったのにはいくつか理由がありますが、まずは何といっても兄があまりにも優秀すぎたからでしょう。
宮廷楽長としての長いキャリアだけでなく、交響曲という型を作りロンドンでも名声を得た大作曲家です。

また弟がザルツブルクという土地を離れなかったことも一因かと思います。
ザルツブルクの宮廷楽長に就任し、モーツァルトがザルツブルクを離れるとその後任として大聖堂オルガニストを兼務します。
その後は各地有力者からのオファーにも首を縦に振らず、ザルツブルクがフランス軍に占領され財産を全て奪われてさえも、兄が口を利いた宮廷第二楽長の職を断ってザルツブルクにとどまっています。
そのため死後はミヒャエル・ハイドンという音楽家の名前は人々の記憶から薄れていき、偉大な兄の前に霞んでしまったのでしょう。

そんなミヒャエル・ハイドンですが、生前はザルツブルク出身のモーツァルト父子と非常に深い親交がありました。

モーツァルトの消えた交響曲の謎



こんなエピソードが残っています。
ミヒャエル・ハイドンが受注した六曲のヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲の作成途中にミヒャエルが体調を崩すと、以後の作業ができなくなったミヒャエルの代わりにその続きを友人であるモーツァルトが作曲しています。

またモーツァルトの交響曲第37番というのは現在存在しないのですが、そこにもミヒャエル・ハイドンの存在が関わってきます。
現在というところがポイントですが、19世紀まではモーツァルトの交響曲第37番は存在していました。
しかし1907年、ミヒャエル・ハイドンの研究家がモーツァルトの交響曲第37番はミヒャエルの交響曲第25番に序奏を付けただけだということを発見します。
通常であれば番号の繰り上げが行われるところですが、この事実が発見されるまでに長い期間を要しているため、今さら慣れ親しんだ番号体系を変えるのも分かりにくいということで37番は欠番となりました。

モーツァルトがなぜこのようなことをしたのかについては諸説ありますが、リンツ滞在中のモーツァルトから父レオポルトへの手紙の中で「伯爵から3日後の演奏会のために交響曲の作曲の依頼を受けたが、今手持ちの交響曲がないので急いで作曲しなければいけない。」とつづられています。
ミヒャエルの体調不良でモーツァルトが作曲のピンチヒッターをしたのも同じ1783年であることから、ミヒャエルが困っているモーツァルトのために自作を1曲提供したとも言われています。
しかしリンツ滞在中にモーツァルトは36番と37番の2曲の交響曲を作曲したと言われていましたが、その後さらに研究が進むにつれてモーツァルトが交響曲第37番の序奏に使用された五線譜が、リンツからウィーンへ戻った後の短期間でしか使われていなかったものであったことが判明し、そもそもモーツァルトはリンツで交響曲第36番しか作曲していないことが判明しました。
それを裏付けるようにモーツァルトから父レオポルトへの手紙の中で「交響曲第36番を伯爵のために作曲した。」と書かれており、交響曲第37番がなぜミヒャエルの交響曲に序奏を付けたものであったのかの真相はまた闇の中へ葬られることとなりました。
それどころか交響曲第36番のような完成度の高い交響曲をいかにして3日で仕上げ、演奏者のリハーサルに至ったのかという新しい謎を生み出す結果となりました。

少し話が逸れてしまいましたが、ハイドンの作品に触れてみましょう。
何といっても有名なのはザルツブルク大司教の死去を受けて作曲されたレクイエムでしょう。
作曲の年にミヒャエルの愛娘も死去しており、その時に感じた悲しみが強い霊感となって作曲されたと言われています。
また言わずと知れたモーツァルトのレクイエムはこのミヒャエルのレクイエムに多分に影響を受けており、作品の原型となっています。

ミヒャエル・ハイドンは音楽の師としてもとても優秀で、教え子には『ウェーバーはモーツァルトの親戚だった?』で紹介したウェーバーがいます。

ぜひ兄のハイドンだけでなく、弟のハイドンの作品にも耳を傾けてみて下さい。

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