混乱の舞となった春の祭典の初演

2016/05/26
混乱の舞となった春の祭典の初演
雑学 楽曲

イーゴリ・ストラヴィンスキー



今日では20世紀を代表する作曲家に数えられるストラヴィンスキーですが、実は非常に遅咲きの作曲家でした。
父親が劇場のバス歌手であったため音楽の教育は受けていましたが、その父が息子が音楽家になることに反対しており、結果ストラヴィンスキーは父の意向を受けてペテルブルク大学で法律を学ぶこととなります。

しかし在学中に父が亡くなるとストラヴィンスキーは作曲家になることを決意し、同じ大学で知り合ったリムスキー=コルサコフの息子に仲介を頼み、リムスキー=コルサコフから自曲に対しての指導と管弦楽法を学ぶこととなります。

この師であるリムスキー=コルサコフの娘の結婚式のために作曲した『花火』が初演を迎えると、鑑賞していたロシア・バレエ団の主催者であるセルゲイ・ディアギレフがその管弦楽法に感銘を受け、バレエ音楽『火の鳥』の作曲依頼へと繋がっていくこととなります。

『火の鳥』、『ペトルーシュカ』の大成功でその名声を確固たるものとしたストラヴィンスキーは、自身の三大バレエ音楽と言われる中の最後の1曲『春の祭典』に着手します。
これは『火の鳥』の仕上げの際に見た幻影に着想を得たと言われています。
その幻影とは、春の訪れの喜びに感謝し、生贄の若い女性を捧げるという異教の儀式の模様です。

このような幻影に着想を得た作品ですから、これまでの管弦楽とは完全に一線を画しており、当時の聴衆にとってはよく言えば新しい、いやそれこそまさに異教の儀式を見るようなものだったのです。

混沌の渦



さて、いよいよ初演を迎えた『春の祭典』ですが、会場にはサン=サーンス、ドビュッシーラヴェルなど錚々たる面々が顔を揃えていました。
如何にこの『春の祭典』が注目を浴びていたかが分かります。

そして舞台が幕を開けます。
いきなりファゴットの限界音に近い高音域から音楽がスタートし、これを聴いたサン=サーンスは「楽器の使い方を知らない奴の曲は聴かない。」と帰ってしまったと言われています。
もちろんそこにはストラヴィンスキーの明確な意図があったのですが、意図を汲み取る前に拒絶が起きてしまうほどに斬新な手法だったのです。

当然、それは他の聴衆にとっても同様です。
春の芽吹きが凍てつく大地を下から突き上げるような独特な変拍子のリズムに合わせて聴衆は足踏みをし、不協和音の連続で旋律のない音楽に合わせて展開される不気味な踊りに飛び交う嘲笑や野次の数々。
賛同する声が上がったかと思えばすぐにそれを非難する声が上がり、とうとう殴り合いの喧嘩まで始まる始末。
喧騒で音楽が聴こえなくなったダンサーは拍子を見失い、ストラヴィンスキーは舞台袖へ逃げ込みました。

翌日の新聞には『春の災典』という見出しが躍った、クラシック史上稀に見る大失敗の初演でした。
自信家であったストラヴィンスキーもさすがにこたえたそうです。

しかし『春の祭典』は今では20世紀最高の傑作と呼ばれるほどに評価されている作品です。
時代が進み振り返ってみれば、当時は異様としか映らなかった作品も、今ではクラシック音楽史の文脈の中で重要な意味を持つ作品であり、ストラヴィンスキーの意図も正しく汲み取れる様になりました。

そして何よりこの曲ははまってしまう人はとことんはまってしまいます!
『春の祭典』の初演は5月29日。
春のエネルギーを感じながら是非一度聴いてみてはいかがでしょうか。

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