ブラームス派 VS ワーグナー派

2016/04/13
ブラームス派 VS ワーグナー派
雑学

二大派閥誕生の理由



風が吹けば桶屋が儲かる的な理論に聞こえてしまうかもしれませんが、これはひとえにベートーヴェンのせいだと言っても過言ではないでしょう。
いえ決してベートーヴェンが悪いということではないのです。
あまりにもベートーヴェンが偉大すぎるが故に起きたことではないかと考えられるのです。

歴史の声に耳を傾けてみると、偉大な王が没した後には得てしてその世継ぎが争い合うということが繰り返されるようです。
19世紀の音楽界で起きた争いも、同じ種を有しているように思えます。

ベートーヴェンという音楽家は古典派音楽の創造の頂点であると同時に、古典派音楽を破壊した旗手でもありました。
ひとりの人間が56年という決して長くはない時間の中で、ひとつの時代を完成させ、そして壊してしまったのです。
ブラームスは交響曲第5番に代表されるようなモチーフを用いた古典的な手法に感化され、ワーグナーは交響曲に合唱を取り入れた交響曲第9番のような新しい手法に感化されます。
このようにベートーヴェンの諸手にある相反する創造と破壊というふたつのファクターが、彼の死後、創造と手を繋いだブラームス派と破壊と手を繋いだワーグナー派へと繋がっていくのです。

標題音楽と絶対音楽



ブラームスワーグナーの活躍したロマン派の時代にひとりの音楽評論家がいました。
名をエドゥアルト・ハンスリックといいます。

彼の代表的な著書、『音楽的に美なるもの』という著書名にも端的に表れていますが、ハンスリックは絶対音楽の信奉者でした。
つまり何かの文脈があって音楽というものが芸術性を帯びるのではなく、音楽はただ音楽として美しいものだという思想を持っていたのです。

絶対音楽を信奉するハンスリックにとって、公演の前に自作について文脈や思想をどのように音楽で表現したかを長々と演説し、思想を伝えるためには演劇を取り入れることも厭わなかったワーグナーの表現方法は受け入れられるものではありませんでした。

音楽で全てを表現できると豪語するワーグナーと音楽は音楽で全てであるというハンスリック。
このふたりには音楽に対する思想の他にもうひとつの大きな違いがありました。
それはワーグナーは作曲家という音楽の創作者であるのに対して、ハンスリックは音楽の評論家であったということです。

ハンスリックは自身の思想を体現できる作曲家を探し求めていました。
そこで白羽の矢が立ったのがブラームスだったのです。
モチーフを用いて作品を組み立てていき、音楽としての完成を求めたブラームスの作品はハンスリックの思想ととても相性がよく、ハンスリックはワーグナーリストなどの標題音楽を痛烈に批判すると共に、ブラームスの音楽を絶賛するようになりました。

ブラームスもハンスリックとは良好な関係を築き、自身が発掘したドヴォルザークと共に望んでか望まずかブラームス派を型どっていくこととなります。

派閥の争いか個人の争いか



さて、ハンスリックとは水と油の関係であったワーグナーですが、直接ブラームスのことをどう評価していたのでしょうか。

ロマン派を地で行くかのような思想のワーグナーですが、決して古典的手法を下に見ていたわけではありませんでした。
それどころか小さい頃からバッハの音楽に親しみ、対位法を用いた形式的な美を愛してすらいたのです。
ブラームスバッハを研究し自身の交響曲に用いるほどですから、全く逆の色の旗を振っているように思われたふたりも、元は同郷のよしみのようなものだったのです。

バッハに学び、ベートーヴェンによって音楽の天分に水を与えられたブラームスワーグナー
創造と破壊という違う芽を出しながらも根はしっかりと繋がっていたのです。

ワーグナーの作品を積極的に鑑賞、研究していたブラームスと、ブラームスという派閥の旗頭を攻撃することはあっても、決してその作品を否定しなかったワーグナー
どのような経緯があったにせよ、我々にとっては完全に開花したふたつの天分が残した珠玉の作品群を鑑賞し、その当時に想いを馳せるよりありません。

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