ラヴェルの悲劇

2016/01/27
ラヴェルの悲劇
人物 雑学

ラヴェルという作曲家



印象主義音楽の作曲家といえば?という問いに対してドビュッシーの次に名前があがってくるのが、このラヴェルではないでしょうか。
印象主義というと自由で型に捉われないというイメージがありますが、ラヴェルについては一概にそうとも言い切れず、ソナタ形式の導入など古典派時代に立脚した形式を用いることもあり、新古典派という呼ばれ方をすることもあります。
ラヴェルは自由な音楽語法を取り入れながらも、大きな枠での形式美にもこだわりを持っていたことが伺え、求道者の様なストイックな一面が見え隠れします。
またその反面、いたずら好きな子供のような一面もあり、友人たちを家に招いては数々のいたずらをしかけていたようです。

ラヴェルは管弦楽の魔術師と呼ばれる程にオーケストレーションに精通しており、ムソルグスキーの『展覧会の絵』を管弦楽アレンジし、一躍その名を世界に知らしめたことはあまりに有名な話ですが、そのラヴェル自身の知名度を上げた曲があります。
自身がパリ音楽院在学中に作曲をした『亡き王女のためのパヴァーヌ』です。
この曲はラヴェルがルーブル美術館のマルガリータ王女の肖像画からインスピレーションを得て作曲したと言われており、パヴァーヌというのは宮廷舞曲の意です。
『亡き王女のためのパヴァーヌ』は女性を中心に世間からは高い評価を受けますが、自身の評価は大胆さにかける貧弱な形式だと辛口な評価だったようです。

発病



第一次世界大戦の勃発、最愛の母の死を経てラヴェルの創作活動は滞りを見せるようになります。
そしてあの有名な「ボレロ」作曲前年の1927年より軽い記憶障害と言語障害がラヴェルを襲います。
友人に宛てた手紙にも、いたずらっ子のようなおどけた口調ではありますが、自身の異変を感じているかのような言葉が出てきます。

そして1932年のタクシー事故で脳震盪を起こしたラヴェルは一気にその症状を悪化させ、日常生活にまで支障をきたすようになります。
ラヴェルの症状は特殊なもので、痴呆のように全体的に障害が起こるのではなく、文字を書くことだったり言葉を話すことなど表出分野においてのみ障害が出ており、思考や音楽を判断する力はまったく衰えていなかったようです。
書きたい言葉があるのに、言いたい言葉があるのにその言葉が出てこない。
辞書を引きながら手紙を書いたり、言葉を発することをあきらめてしまったり。
たまに簡単な言葉を話せる日があると、家を訪ねてきた友人に「私の名前は何というんだっけ?」とおどけることもあったそうですが、何より作曲家であるラヴェルにとって、頭の中に流れている音楽を五線譜に書き表すことができないという苦痛は想像を絶するものがあります。
ある演奏会の後に、友人に「私の頭の中にはたくさんの音楽が豊かに流れている。それをもっとみんなに聴かせたいのに、もう一文字も曲が書けなくなってしまった。」と泣き叫んだといいます。
不器用ながらも繊細で優しいラヴェルは多くの友人から愛されていましたから、それを聞いた友人もさぞ苦しかったことでしょう。

1937年12月17日、ラヴェルはわずかな可能性を信じて開頭手術に臨みます。
一時は食事が取れるまでに回復し周りのものを喜ばせましたが、直後に昏睡状態に陥り、12月28日に帰らぬ人となりました。

生前、症状が悪化する中で『亡き王女のためのパヴァーヌ』が演奏させているのを聴き、「とても美しい曲だ。誰が書いた曲だい?」と聞いたというエピソードが残されています。
この話が真実だとすれば、この曲に対して辛口評価だったラヴェルですが、余計なしがらみを排除して純粋な心で聴いたときの感想は『美しい』というものだったということですね。

ラヴェルの頭の中に鳴っていた、ラヴェルだけが聴くことのできた音楽を聴くことはもう叶いませんが、残された作品をラヴェルの人生に思いを馳せながら聴いていきたいと思います。

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